文化の達人から聞く、小坂の魅力。
四百年以上の歴史をもつ湯屋温泉の伝統を守り、後世につなぎ残していきたい。 桃原 美奈子さん

(1)お客さんにニコニコ顔で帰ってほしい

ニコニコ荘  400年以上の歴史があると言われている湯屋温泉のお湯(炭酸泉)は、「飲むと胃腸にいい」と言われているから、お越しになるお客さんも、胃に不調をかかえておられる方が多いのね。そういう方は顔色が悪かったり、しかめ面をされているもんで、それがここで湯治したあとにはニコニコして帰っていただきたい、という思いを込めたのが「ニコニコ荘」の名の由来だと聞いてます。
 桃原館という旅館ね、あそこがうちの本家なの。
桃原館が長男で、合掌苑(今は廃業)が二男、うちが三男。
「ニコニコ荘」は桃原館のおじいちゃんが名付け親なの。当時にしてみれば、斬新な感じやったんではないかな。

 材木の商売が調子良かったころはさ、小坂は下呂を凌ぐくらい栄えてたんだってね。湯屋温泉も、もうほんとの旅館街。映画館がふたつもあって、芸者さんもいたそうだよ。
 ちょうど嫁に来たころが、他の旅館も代替わりの時期やったんかな、ひとつふたつと辞めていってね、今では当時の半分くらいかな。
 私もそれまでは普通にお勤めしていて、旅館なんてまったく畑違いやったけどね。主人も言うんだけど、「もうこれしかない」っていうのじゃなくて、他にいろんなことをやってきて、「旅館仕事も、まずやってみようかな」くらいの意識でちょうどいいんじゃないかって。だから、「まぁ、何とかなるんじゃないの」みたいな気持ちで(笑)受け継いだというのが正直なところ。

ニコニコ荘の女将  実際、旅館の女将という仕事は、大変というより「慣れ」かなぁ。
 土日はまったく休めないから、子どもたちがちょっとかわいそうかなと思うことはあったけど、まぁ、主人もそういうふうに育ってきたしさ、「そういうもんだ」って慣れちゃってるところもあるし。逆にいつも必ず家にはいるわけでしょ。お父さんも、おばあちゃんもいるし。子育ての面で、そういう安心感はあるよね。忙しいときはまったく放りっぱなしになっちゃうけど(笑)。

 私たちなんて、毎日当たり前のように温泉入ってるけど、それって幸せなことやね。でもね、いつも入っとるとさ、逆に普通のお風呂に憧れたりする(笑)。今っていろんな入浴剤があるでしょ、柚子の香りなんて入れてね、本でも読んだりなんかして、小っちゃいお風呂でいいから、一人だけでゆっくりつかりたいっていう(笑)。そういうのはあるね。

(2)炭酸泉の魅力

飲泉場  湯屋のお湯はね、炭酸の含有率が高くて、飲泉もできるし、胃腸に対する効能が高いって言われてる。それに、みなさん「すごくあったまる」って言われる。「湯ざめしにくい」って。あと、すごくしっとりするかな。

 お客さんは、中高年の方が多いね。今、シニア層の人が元気ってこともあるけど、30~40代だと、まだ子育てに時間もお金もかかったり、なかなか来づらい気がする。やっぱり、温泉入って、おいしいもの食べて、ゆっくりしたいっていう。有名な温泉地みたいにガチャガチャしてなくって。適度に鄙びてるというか、静かに過ごせる。部屋でゆっくり過ごされるお客さんが多いね。

ニコニコ荘のお料理  それに、うちはリピーターさんが多い。だから料理にはけっこう気を配りますね。あんまり同じようなものにならないように。あるいはお客さんが「今日のこれが美味しかった」と言われたのを覚えておいて、次にいらしたときにもお出ししたり。
 炭酸泉を使った湯豆腐やお粥もお出ししてます。とろ~りとしておいしいよ。ただ、うちの源泉は鉄分が多いから、あまり加熱すると茶色くなっちゃって、料理に使うのはけっこう難しいんだよねぇ…。
 食材も、なるべく地産地消のものをと思うんやけど、そればっかりでは物足りないのかなぁと思って、いろいろ変わったものをお出ししてみたり。季節によって変えるのはもちろんだけど、いろいろ工夫していきたいね。

 まぁねぇ、温泉地なんて全国どこにでもあるけれど、でも、その中で「やっぱり炭酸泉がいい」って来てくれるお客さんがいるわけでね。
温泉  炭酸泉っていうのは本当にすごいと思うしさ、でもそれって旅館だけのものではないわけじゃない。たまたまこういうところで商売させてもらえとるだけでさ、すごくありがたいと思う。湯屋はすごく歴史のある温泉地やしね、それを守りつつ、後世に残していく、つないでいけるといいんやけどね。

(3)自分の故郷を誇りに思ってほしい

 でも、これからのことを考えると、若い人がいないと厳しいよね。旅館業だけではなく、小坂で育った子どもたちが、いったんは進学や就職で外に出てったとしても、「またここに戻って来たい」と、そう思う子を育てるというか、小坂をそう思える場所にしていかないとあかんのやろうね。
 かと言って、あんまり手をかけて変わってっちゃうのも、いいことなのかどうか…。お客さんの中には、「今のこの感じがいいから来てるんだよ。がんばって良くしていかなくても、今のままでいいんだよ」って方が多いんやよねぇ。

 どうしたらいいんかね。まずやっぱり、(子どもたちが成長して)こっちで「何かしたい」って思ってもさ、仕事がないと戻ってこられんしね。定年退職してから戻ってくるのではちょっと遅いし。やっぱり、結婚して「子育てはこっちでする」ぐらいの。でもそれって全国共通の問題やな…。

桃原 美奈子さん  まぁ、そうなると大きい部分で考えていかないとあかん部分もあるけど、まずは小坂のことを知ってもらうことからやね。外の人にはもちろんやけど、まずは地元の人たちにも。
 実はね、ここに嫁いでくるまでは私、全然小坂のことを知らなかったの。同じ下呂市でも、私は南の地域に住んでて、小坂に来たこともなかった。こんなにも自然が残っていることも、巌立も、滝も、湯屋温泉も知らなかったんやから(笑)。

 「小坂はこんなにいいとこなんや」ってことを、まずは地元の人間がちゃんと知って、それを外の人に伝えるっていうことね。
 それによって、お客さんがワーッと来てほしいとかそんなんじゃないんだけど、今あるもの、伝統っていうとちょっと堅苦しくなるかもしれないけれど、今ここにあるものを大事にして、確実に残していきたい、次の世代の人たちに渡していきたい。
 まずはそこから。それで後の世代の人たちが、自分の故郷を誇りに思ってくれれば、そこから何か始まるんじゃないかな。

ニコニコ荘
>> http://niko2sou.com/

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