味の達人から聞く、小坂の魅力。
蕎麦は「挽きたて、打ちたて、ゆでたて」。「とれたて」が加われば、なお美味しい。

(1)幻の「飛騨蕎麦」をさがして

 蕎麦というのは、もともと五穀の中に入れてもらえなかった作物なんですね。まったくの休耕作物で、昔は畑で作るものではなかった。逆に言えば、どこででも出来るということなんですけれども。
 だから、それほどお米とか他の作物のように品種改良というものが進んでいないんです。品種改良が進んでいないものですから、米や麦に比べると、同じ面積で作っても収穫量が少ないということもある。
 「韃靼(だったん)蕎麦」と「日本蕎麦」は違うものかもしれませんが、「日本蕎麦」の中に品種の違いはないみたいですね。例えば「信州蕎麦」とか言いますが、特徴はほとんどないと思います。蕎麦の何十本に一本は赤い花が咲くことがあるんですが、その赤い花だけを集めて種を蒔くとか、そういうことはあるみたいですけれども。

 お隣りの長野県開田村は昔から蕎麦で有名でしたが、こちらの地方ではあまり蕎麦切りにして食べるという習慣はなかったみたいで、お年寄りに聞いても、「掻いて食べた」とか、「団子にして囲炉裏で焼いて食べた」とか、そういう話ししか出てこないですね。
 「飛騨蕎麦」という言葉はよく聞くので、どこで作られているのかなと思い、あるとき、あちこち探し歩いてみたんですよ。ところがもうほとんど作られていなかったんですね。それなら、自分で作ってみようと。

(2)農業体験ゼロからの蕎麦づくり

 そんなことで、私が蕎麦を作り始めて20年近くなりますかね。
 それまで農業なんてやったことがなかったですから、最初はどれだけ出来るかすらわからなかった。ですが、蕎麦というものは、私のような人間でもできる作物なんです。草取りとか特別な手入れをしなくても、蒔いて放っておけば自然と実がつく作物ですから。

 その年の天候によっても左右されますが、蕎麦はだいたい、種を蒔いてから75日から80日で収穫できるんです。小坂の紅葉は10月の下旬ですから、8月の初めに蒔けば、収穫のときに紅葉も楽しめます。10月の終わりに刈って、11月早々には食べていただけるわけです。
 種を蒔くのは、一年のうち一番暑いときなんですよね。種を蒔く日に雨が降ると、ほとんど芽が出てこないんですよ。強い雨で、畑に水がたまると最悪ですね。干ばつには非常に強いんですけれども。
 蕎麦は9月いっぱいかかって枝が出て、どんどん花が咲いていきます。早く咲いた花から順に、1ヶ月かけて実を付けていくんです。7月の終わりより早く蒔いても、花は咲くんですけれども、実は実らないんです。秋のこぼれた実から、春に暖かくなると芽を出して、夏前には花が咲くんですけれども、それには実は実らないですね。

(3)「挽きたて、打ちたて、ゆでたて」&「とれたて」

 蕎麦に限らず、食べ物っていうのは新鮮なうちが一番美味しいですよね。お米でも、もみのまま貯蔵して、精米したらすぐにいただくのが美味しい。蕎麦もそれと同じで、新鮮さが命だと思います。

 普通、蕎麦というのは、「三たて」といいまして、「挽きたて、打ちたて、ゆでたて」が美味しいんですよね。そこに「とれたて」が加われば「四たて」になりますので、さらに美味しいんじゃないでしょうか。
 また、「粉に挽いたら3日、打ったら3時間、茹でたら3分」とも言うんですよ。そうじゃないと、味がどんどん落ちてしまう。
 “新そば”というのは実の色から違うんです。冬の間はいいんですけれども、夏になると蕎麦は色も悪くなり、美味しくなくなります。“新そば”というのは、せいぜい12月いっぱいですかね。

(4)自ら種を蒔き、収穫し、挽いて打ち、いただく喜び。

 ここ6年くらいは、ちょうど耕す人がいなかった伯母の畑を借りて、蕎麦を作っています。
 それ以前は、もっと山の奥で育てていましたが、イノシシやサルにやられて…。サルは蕎麦なんて食べないと思っていたんですけれどもね、あるとき、刈って乾燥させているところへ入られましてね。めちゃくちゃにされて、もうこの畑は完全に覚えられたなと思って、サルは賢いですからね、そこはもう辞めたんです。
 今の畑は、比較的そういう動物が来ないところなんです。片側が道路ですし、反対側には家も並んでいるし。それでもイノシシが来るんですね。そろそろ電気柵をしないといけないんですが。電気柵が早いか、イノシシが早いかというところですね。

 うちでは、旅館のお泊りの料理の中に、一品とか二品、蕎麦料理をお出ししているんです。その日のうちに、必要な量だけ粉にして打って。蕎麦屋さんのように、それだけでお腹が一杯になるほど必要ではないものですから、どうにか少ない量でも間に合っているわけで。
 以前に計算したことがあったんですけれどもね、夫婦二人で蕎麦屋さんをやるとして、自分で栽培しようと思うと、二町歩以上ないと駄目ですね。今の畑の20倍くらいでしょうか。この辺りでも専業でやっていらっしゃる農家さんでも、お米とか野菜を含めて一町歩くらいですからね。

 最近は、あちこちで「村おこし」として蕎麦を栽培するところが増えて、自給率が上がってはいるそうですけれども、それでもまだほとんどが輸入物です。お蕎麦屋さんで食べても、どこ産のそば粉かは分かりませんよね。自分で種を蒔いて、育てて収穫し、それを挽いて打つ、きっとそれが一番美味しいと思います。

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