自然の達人から聞く、小坂の魅力。
mainimg

(1)自然が人々に与えた教訓を胸に

1955年に教師として小坂町の湯屋小学校に赴任して以来、僕は小坂の自然が好きで、小坂の自然を大事に思い、何か小坂の自然を守るために役に立てることはないかと活動を続けてきました。私が多くの方に伝えたい小坂町の魅力はね、大自然の素晴らしさ。

御嶽山を挟んで、岐阜県と長野県に分かれるわけですが、長野県側は立地が平坦ですから、開発が進んどるんですよ。逆に、それだけ自然が壊されているということやね。ですが、岐阜県側にあたる小坂町は急峻で滝が多く、用地が狭いわけ。それでかえって観光開発から守られたわけ。高速道路も通っておらず、名古屋などの都市部からも遠いしね。恵まれていないために、かえって自然破壊をまぬがれた。ただその分、産業振興とか雇用とか、いろいろと苦労してこなければいけなかったけれども、小坂には貴重な自然が、何ものにも代えがたい自然が、まだ何とか残っておる。これ、私は一番ありがたいと思っております。
ですが、大事なのはこの先の将来、いかにしてこの小坂の自然を守っていくかということなんです。

むかし戦争があってね、戦後の復興のために、小坂からも材木がたくさん伐り出されて行ったわけですよ。50年、100年ものの檜(ひのき)がね。
(林業を)すべて人力でやってた頃はまだよかったけど、技術革新が進んでね、林道ができて、チェーンソーができて、集材機で谷底にある木でも切って上げてしまう。もう、根こそぎ持っていってしまった。山は痩せて行くわね。そのあとに同じ木を植えたところで成長しないわけですよ。手入れが倍以上かかる。さらには製材所も減ってしまったし、働く人はいなくなったし。中山間地として、材木産業としての小坂は今、非常に深刻な状況にあるのです。
100歳にもなる木を一夜にして伐採し、都会に持っていって、金にして、一部であったかも知れないが、飲み食いをしたり、無駄遣いをして、罰があたっているわけやな。ですから自然が人々に与えた教訓なのだと。この辺りの人は、みんなそう思っとる。

(2)小坂衆の自慢、県下一の栗の木

僕が教師として湯屋小学校に赴任した当事、世の中では国土緑化運動が盛んで、その頃から山の木も里の木も、3メートル以上の木は「巨木」として市町村が指定して守り、5メートル以上は「巨樹」といって県や国が天然記念物として認めるようになった。
小坂には巨樹が多いわけ。岐阜県から巨樹の代表として認定されたのは4つ。檜でひとつ、梅でひとつ、桜でひとつ、栗でひとつ。中でも、鎌倉時代に戦に敗れた落ち武者たちが植えたと伝えられる「大洞の栗の木」は岐阜県で1番、全国で3番。
もともと小坂にはたくさんの栗の木があってね。ところが今はもう「大洞の栗の木」しか残っとらんのですよ。戦後に植えた木はありますよ、実を採るために植えた木なら。

私は昭和3年生まれですが、10歳頃にね、小坂駅の周辺に栗の木の枕木が何百本と積んであったの。一番大きいのは東海道本線用、それと高山線のようなローカル線用、山林鉄道用とあって、その内の鉄道の枕木が家の土台や屋根吹きにも使われてね、どんどん出て行った。それで今は、大洞の栗の木一本しか残ってない。みじめなもんです。
だけど「大洞の栗の木」はすごい木や。さすが県下一や、あの木は。それは自慢やわね、小坂衆の。

ca

(3)木を守ることは、木を知ることから

小坂の840本の桜が「てんぐす病」にかかっているの。風に乗って伝染するんだわ。「小坂の桜を守る会」というボランティア団体が、年に50本、病気の木を切って燃やして、その代わりに浄福寺の伝説で有名なしだれ桜の実生を畑で育てて、植えてるの。あの桜は江戸から持ってこられた伝説の桜だけれどもね、病気に強く、てんぐすにかからんの。

そういう個人やグループが、つながりを持って励ましあっていきたいと思うんやけれどもね。それにもっと若い世代の人に活躍してもらえればいいんだけれども、めぼしい人材がよそへ出て行ってしまって、なかなか後継者が少なくて…。
中学校に「緑の少年団」というのがあるんやけど、やってることといえば、植樹祭の時に制服を着て、緑色のハンカチをつけて、バスに揺られて山へ行って、お駄賃もらって帰ってくるだけ。そんなのでは意味がないね。だったら例えば、夏休みを利用して、持ち主の許可を得て、木に札をつける運動をやったらどうかと思う。「これは何の木で、何年経っている、これは小坂町の保存樹だ」と言ってね。そうすれば子どもたちも木を覚えるしね。山の国、材木の国である小坂の青少年が、檜や杉の区別ができん子もいる。梅の木は花が咲くから分かる、しかし樹木を知らん子供が多い。私は、小坂の人間であれば少なくとも十種類の木くらいは覚えてもらいたいと思っているの。

(4)小坂で一番の絶景、そして一番美しい季節

小坂で一番の眺めといえば、それはもう天然記念物である「がんだて」が圧倒的やね。
日常的な眺めで僕が一番好きなのは、小坂振興事務所の前から御嶽山側を見た風景。町なかでいえば、川へ降りて、そこから橋や山を見るのもいいね。
小坂はね、新緑の季節、それと秋、特に紅葉のときがいいんです。
ほんと、新緑は雨上がりに見ると目に滲みるくらいの緑。秋はススキ、おみなえし、咲きますわね、襲名菊も。9月の上旬は、彼岸花がずっと咲くんですよ、長谷寺の境内に。何もなかったところに、3年かけて彼岸花の球根を植えたんです。そりゃもう綺麗なもんです。
紅葉になると、一日一日変わっていくでしょ、向こうの山も、こっちの山も。日照りが続く熱い夏だと、その秋はすごい紅葉なんですよ。小坂、湯屋、落合の紅葉、諏訪神社の紅葉。目に滲みるような紅葉。それから、湯屋小学校の裏庭を登るとエンダという地名の水田があるんやけど、そこから観る落合の紅葉も、お寺があって、民家があって、清流と一緒に写真を撮ると、圧倒的な写真が取れるんや。
近年、小坂の文化財と自然を組み込んだ、写真入のカレンダーを作っとるんですよ。

小坂には、守っていきたい、守っていかねばならん木が41種類、86本あるの。僕はその場所や大きさ、持ち主も全部調べて、「保存樹」という冊子にまとめたわけ。
教員を退職した88年に県文化財保護巡視員を委嘱され、2005年に77歳になるまで18年間続けました。今でも樹木の巡回は欠かしません。
樹木こそ、神様であり宝であり。自然の移り変わりこそ、天然の庭師。しかも天才的な庭師や。自然がつくり出す変化には、どんな立派な庭師でもかなわんと、いつも僕は力説しているわけなんです。

前に戻る
  • 2010年小坂の味コンテスト レシピ着
  • ようこそ小坂へ
  • 達人と小坂を楽しむ 体験プログラムイベントカレンダー
  • 小坂の滝めぐり
  • NPO法人 飛騨小坂200滝
  • 飲める温泉 ひめしゃがの湯
  • ウッディランド 飛騨小坂ふれあいの森
  • 飛騨頂上御嶽山 五の池小屋
上にもどる