自然の達人から聞く、小坂の魅力。
滝の素晴らしさにハッとするだけじゃなく道中の草花も楽しんでほしいなぁ。

(1)小坂でガイドを始めるまで

 飛騨小坂200滝のガイドをさせてもらってますが、自分の得意分野は植物。ガイドの養成講座でも植物の講師をしています。
 植物について細かいことを覚え始めたのは学生時代から。もともと動植物が好きだったんですけど、大学で森林生態学を専攻して、「植物を見るのっておもしろいなぁ」と思うようになって、それで山に通ううちに覚えていきました。
 でも、もともと初めは動物の方が好で今でも野生の鹿とか見るとすごい感動してしまうけど、この辺の人にしてみればやっぱり害獣だから、喜ばれないですね(笑)。確かに鹿は分布を拡大してきてて、問題なんだけど、やっぱり何か、見ると文句なしに感動してしまう。かっこいい。やっぱりカモシカより鹿はかっこいい。カモシカを見たときも十分感動したけど(笑)。でも害獣やもんで…あまり大きな声では言えませんが。

 青年海外協力隊で植林プロジェクトに派遣されて、タンザニアに3年間行ってたこともあります。タンザニアの首都を半乾燥地に移転して、その新首都の周りにグリーンベルトを造成する、そこに木を植えるという、半乾燥地の緑化プロジェクトでした。
 実際に植えるのは現地の作業員の人たちで、私は苗木を作る育苗場で仕事してました。一応名目は技術指導なんですけど、まぁだいたいは確立されているので、そこに自生種を導入しようとか、あとは周りの植生調査をして、どこにどんなのを植えたらいいかとか、そういう感じでしたね。
 タンザニアにもいましたよ、野生の動物が。象とかキリンとかライオンとか、その手のものがいっぱい。
 一応は町に住んでたんで、近くにはそんなに出てこなくて、でも夜になると町外れの方でハイエナが出るとか、「夜はあぶないよー」って言われたり。ちょっと近所の牧場に行くと、牧場にキリンが出たとか、そんなのはありました。でも、やっぱり国立公園に行かないと、なかなかしっかりと動物を見ることはできなった。
 ただ、グリーンベルトで木を植えてるところにも、野生動物の、カモシカの仲間がけっこう住んでいて、植えた苗木を食べちゃうので、そこでも害獣と言われていて。野生動物も食べるし、現地の人が飼ってるヤギや牛も食べちゃうし。そんな感じで。

 そのプロジェクトで、たまたま一緒のグループにおった人と結婚して、プロジェクト終了後、そのダンナが小坂町森林組合に仕事を見つけて、それで私も一緒に小坂に来たわけ。もう15年になりますね。

(2)滝めぐりの中の植物観察

 「NPO飛騨小坂200滝」が立ち上がった頃にはもうこちらにいたので、最初のときから一応メンバーには入ってたと思います。ただ、そんなにガンガン活動してたわけじゃなくて、ときどき声がかかるとやる程度に、ぼちぼちと。
 NPOが立ち上がる前にも、一応「巌立ガイド」が月イチであったんですね。知る人ぞ知る幻の巌立ウォーキング。まだここが下呂市でなくて小坂町だった頃ですが、役場の観光課の人も手伝ってくれたりして。こちらは5人くらいで、本当に人が来なくて。それも下呂市に併合されてから、あまり協力も得られなくなって、フェードアウトしていったって感じ。そのうち、「今度、四美の健康道場が立ち上がったもんで、そっちでもガイドをやらんか」みたいな。それで四美のガイドも2~3年やってた。
 薬草園ができる前の、山の中の自然観察ウォーキング的な、ほんとにお手軽なやつでした。健康道場の森を歩く、2時間くらいのコースガイドをしていました。だけどそれも第三セクターになったり、民営化とかで、道場も余裕がないもんで、完全予約制みたいになってからは、ほんとにお客さんが少ないんですよ。もう全然、この二年くらい声もかからないし…。まぁ、とにかくそんなことをやっていたので、それで200滝のガイドにも声をかけていただけたのかと。

 まぁ、滝を見に来られるお客さんなんで、それほど植物に興味があるわけでもないだろうなぁとは思うんですけど。コースの道中、ちょっと緊張が途切れる道もありますよね。せっかく来てもらったんだし、そういうところで植物の話をすれば間が持つし、植物の名前ばっかり言ってもチンプンカンプンっていう方もおられるんで、それほど興味がない方でもおもしろいような話を、なるべく選んでしてるつもりなんですけど。でも、歩いていれば(植物は)必ずそこにあるんで、何かしら話をしながら歩くことになるんですけどね。
 滝を見に行くツアーなんだけど、一箇所か二箇所の滝を見て終わりではなく、道中を楽しむには植物はいいかなって、私は思ってます。

(3)それぞれの自然、それぞれの植生

 私が育ったところはもうちょっと暖かいところで、植生帯が違うんですよ、実は。そっちは冬になっても葉っぱの落ちない木が多いところで、けっこう暑苦しいような森なんだけど、こちらの森はいかにも涼しげで、いつも「きれいやなぁ、爽やかやなぁ」って思う。
 あとは、森もそうだけど、水がきれい。ほんとにちょっとしたせせらぎとかがきれいで、そういうのにいちいち感動したなぁ。名もないような川や、ちっちゃな滝や、流れがほんとにきれい。これはもう私が育った世界にはないものだったんで。
 小坂はほんとに、もうどこまで行っても爽やかだなぁって。流れは美しいし、色も違うし、吹いてくる風も違うし。
 私が育った場所は、ちょうど近くにニュータウンが開発されるところで、「ちっちゃい頃によく遊んだ裏の山がだんだんなくなっていくなぁ」っていう、それにきたない川ではあったけど、そこでもよく遊んだ、そういうものがどんどんなくなってっちゃうのを目の当たりにしてきたので、余計に、山とか森とかに執着ができたかもしれない。

 植物については、大学のときの研究室に、もう歩く辞典みたいな人たちがいっぱいいたので、実習とかに行くと、わからないことは聞けば教えてくれる。で、メモっておいて、細かいことはあとで図鑑で調べたり、確認したり。それでもわかんないのは、採っていって押し花みたいに標本にして調べるとか、まぁ効率よく勉強しました。
 一緒に行って、その場で教えてもらえれば、やっぱりそれが一番楽だし、早いと思います。図鑑だけではわかんないことがいっぱいあって、例えば触った感じとか意外とポイントなんで。厚みとか、質感とか、やっぱり図鑑じゃわかんないんですよ。あと、「葉っぱの大きさが何センチくらい」とか書いてあるけど、そんなの栄養が良いか悪いかで全然違うし、形の長さや太さだって「絶対これ」って形はないから、ほんと質感だけで「これは何の仲間や」とか、そういうのがポイントになってくるんで。やっぱり実際見て触ってってのが、いいと思います。

(4)ガイドをやっていてよかったと思うこと

 四美のガイドをしているとき、きれいな花があるわけでもない、かといって雪があるわけでもないような半端な時期に、退職されたくらいのお父さんと、奥さんと若い娘さんの家族連れがいらっしゃって。何か病気をされたのかわかんないけど、お父さんが杖をついてみえて。いかにも乗り気でないお父さんを、リハビリか何か、奥さんたちが半ば無理やりつれてきたみたいな感じでした。杖をついてみえるので、コースを相談して「舗装された道、山道、登山道とありますけど、どうしましょうか」みたいに言ったら、奥さんが「登山道に行きたいです」って言われるので、ほんとにゆっくりゆっくり回ったんです。
 お父さん、乗り気じゃないもんで、最初はどうなるかなって思ってたんですけど、冬芽をみたり、細かいところ、ほんとにささいなことを見ながら歩いていったら、だんだん興味を持ってくれて。最後に、川の水でコーヒーを入れて、飲んでいただいたら、それもお父さんがすごく喜んでくれて、「また来れたらいいなぁ」みたいに言ってくれて。娘さんやお母さんも、「だからがんばらなきゃね」みたいな感じになって、そのときは「良かったなぁ」って思いました。

 ほんとに何てことはない森なんですよね、四美って。滝があるわけでもないし。でもその分、歩きやすい安全な道が多いので、ああいう森は、誰でも行けることに価値があるんだなぁって思って。すごい体力自慢の健脚の人でなきゃ行けないような山には別の価値があるけど、リハビリ中の人でも行ける山っていうのは、それはまた大きな価値があるのかなぁって思って。
 そのお父さんが、ただ歩いてるだけだったら見過ごしてしまうようなことも、やっぱりガイドさんがおると、おもしろく見えてくることもある。「ここでコーヒーをもらって飲んだことは、きっとずっと忘れないなぁ」なんて言ってくれて。それが一番の思い出かな。

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